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矢野 厚登
税理士法人ブレインパートナー 代表

クリニック経営での労務トラブル対応術
①スタッフ採用トラブルを回避するには?

クリニック経営に重要な「スタッフ」


クリニック創業時には事前の準備をしていないが故に、様々な労務トラブルが起きてしまう可能性があります。
今回から労務トラブルを回避するためにどのような点に注意すればよいのかを解説していきます。
第一回目となる今回はトラブルの中でも先生方が一番頭を悩ませられる、スタッフに関するものを紹介します。

私も多くの先生からの悩みをお聞きしますが、「スタッフが急に辞めてしまった」、「言うことを聞かない・思うように動いてくれない」、中には「開業して半年でスタッフが全員入れ替わってしまった」などの声を聞くことが多々あります。
クリニックを経営していく上でスタッフはとても重要です。これらのトラブルを回避するための採用前の注意点をご紹介します。


トラブル回避のためにスタッフ採用前に確認すること


スタッフから急に無理な申し出をされる場合があります。その時に、クリニックがそれを受け入れられない状況であれば、シフトの欠員、急な退職等のトラブルに発展します。しかし、面接段階で個々の状況を確認することによって、そうしたトラブルのリスクを減らすことは十分に可能なのです。そこで、採用前に確認しておきたい事柄を経営の観点から具体的に解説していきます。

① 勤務希望が扶養の範囲内かどうか
『扶養の範囲』には、「年間収入が103万円以内という税金の扶養範囲」、「向こう1年間の収入見込みが130万円以内という社会保険の扶養範囲」の2種類があります。この条件を確認する事はとても重要です。通常、受付事務であれば午前ないしは午後のみ勤務で年間扶養範囲にマッチします。しかし看護師の場合は時給が高いため、午前中全てシフトを入れてしまうと扶養の範囲を超えてしまいます。

例えばクリニックに常時2人看護師がいる状況を確保するため、常勤1名、パート2名の採用で安心していたら、一番の繁忙期の秋から冬にかけて2人とも扶養範囲近くになってしまい、急に勤務の調整を要求される事があります。また、その年に入ってから働いていた方も注意が必要です。年間収入はその年のすべての収入を合算しますので、採用の際に確認しておかないと、合算してみたらギリギリだったという可能性もあります。


② 想定される最長可能勤務時間
内視鏡検査・往診・在宅医療・日帰り手術等を考えておられる先生もいらっしゃるかと思います。創業時は患者さんの数も少なく、通常の診療時間内で行えることも多いでしょう。しかし、患者数の増加により、通常の診療時間とは別枠で時間を設けて行う必要があるかもしれません。そこで面接の際にはしっかりと院長先生の事業展開、将来的なビジョンを伝えておき、患者さんの状況を見ながらクリニックの診療体制が変わる可能性があることを理解していただき、その際はどこまでの勤務が可能かということを確認しましょう。

③ 通勤手段の詳細
自宅が近く、通勤は自転車、また最寄り駅が1つ隣で通勤に便利だからという方がいます。ここで確認したいことは、雨の日はどうするのかです。仮に、自家用車を使用したいと言われたら、駐車場の確保や、通勤費の計算という問題が発生します。クリニックとしてはどのような取扱いにするのかを含め、事前に確認しておくことが重要です。

上記①~③を面接時にしっかりと確認、そしてスタッフに理解してもらうことによって人事トラブルに関する問題はかなり軽減されるかと思われます。

スタッフ採用の準備と注意点


履歴書やわずかな面接時間で良い人材を見極める事はとても難しい事です。あらかじめ、先ほど紹介した三つの確認事項も含めた質問シートを用意して、事前に記入していただきましょう。

面接時にはそのアンケートを基に質問を掘り下げ、具体的な内容や考え方を聞くことができますし、そうすることによって重要な事項の確認漏れを防ぐことができます。 また、そのときに回答した内容や決めた内容も書き加えておくことによって、後々の無用なトラブルを防ぐことができます。

さらに、採用選考時に家族に関することなどを把握するのは、就職差別につながるおそれがあるため、職業安定法や厚労省のガイドラインで禁止されています。書面であるか口頭であるかにかかわらず、どうしても質問が必要なときには、なぜその質問が必要か説明できるように理由付けをしておいてください。また、必ずご本人の同意を得て、直接たずねてください。


アドバイザー情報


税理士法人ブレインパートナー 代表
矢野 厚登(ヤノ ヒロト)

昭和62年に日本債券信用銀行入社後、監査法人トーマツを経て、平成9年にブレインパートナーを設立。
単に記帳代行業務などだけを請け負うだけではなく、経営者のパートナーとして共に事業のことを真剣に考える関係になるよう心がけています。
著書もいくつかあり、「介護保険と病院経営」「病医院の経営・会計・税務」等を執筆しています。

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