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患者&スタッフをケアする 医院環境での音楽活用術
(3)手術や認知症で活用される音楽

[2012.10.12]

和合治久先生プロフィール
埼玉医科大学 保健医療学部 教授。心のケアや病気の予防・改善のため、音楽の力を用いる「音楽療法」研究の第一人者。特にモーツァルト音楽療法の研究に注力し、その成果を音楽CDの監修やコンサートの企画、講演会などで積極的に活用している。埼玉医科大学では予防医学としての医療を学ぶ健康医療科学科の学生への教育に学科長として尽力している。

沖秀史氏プロフィール
㈱USEN 放送企画本部 本部長。関西大学卒業後、株式会社USENに入社。CM制作ディレクター、洋楽、邦楽番組制作ディレクターを経て、現在USEN音楽放送の番組編成と制作を統括。自社の音楽放送のみならず様々な媒体で、アーティストが創り出す素晴らしい音楽が持つ奥深さを丁寧に紹介していくことを使命として、日々の仕事に取り組んでいる。
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医療現場で音楽が最も使われるのは「手術室」

沖さん
USENは音楽放送をいろいろな場所に提供していますが、医療現場での音楽使用状況について調べたところ、一番使われていた場所が「手術室」でした。やはり手術で執刀する際には、音楽はなくてはならないものなのかなと思います。

和合先生
そう思いますね。外科手術での音楽の役割は大きく分けて二つあります。



①ドクターの集中力を高めること
集中力は誰もが持っていますが、程度に差があります。大学で教えている学生を見ているとよく分かりますが、現代の若い人は集中力がなく、20~30分でもうだめ。昔のように「がんばれ」と言ってもだめです。集中力は限界が誰でもあります。

脳内の意欲や集中力に関連する物質「ドーパミン」は集中している時には前頭葉から出ますが、あるレベルを超えると疲れてきて、ちょっとしたことでイライラしてしまう。セロトニンという物質には脳の疲れを癒す働きがあり、セロトニンの分泌は音楽によって高まります。つまり、音楽には脳を非常に落ち着かせる働きがあります。

脳は休ませることにより次のステップでまた力が発揮できます。力が発揮できるというのは「集中力」の働きなのです。ずっとダラダラではなく、何かをやる前の10~20分の時に音楽を取り入れてもらう。そして次の仕事への集中を高める。そのサイクルがとても大事ですね。
外科医がそういう音楽をあらかじめ聞いておく、たとえば運動選手が走る前にヘッドフォンをつけて音楽を聞く行為は「脳を休めている」のです。そうすると、その後、集中できるのです。ドクターも細かい手術をする時に心が散ってしまったら困ります。そういう面で音楽は、外科医の集中力を高める意味がありますね。

② 患者の負担軽減(出血量の減少と痛みの緩和)
手術をされている側への効果もあります。ひとつは副交感神経のスイッチが入る音楽を流していれば、血管が拡張し、出血量が減り、心拍が穏やかになり、輸血量が減るという点。もうひとつは脳内のβエンドルフィンと呼ばれている脳内モルヒネという物質があるのですが、ある音楽によって高まるとされ、痛みが緩和する訳です。
痛みの緩和を音楽で図ることができれば、麻酔薬の投与量が減ります。つまり患者さんへの外科的負担が非常に軽減されます。

沖さん
相応しい代表的な音楽で言うとなんでしょうか?

和合先生
やはりモーツァルトの音楽はそういった効果がありますね。

沖さん
手術室で執刀医が集中力を高め、患者さんの精神を安定させて苦痛も和らげたい時に、モーツァルトは非常に効果があると。

和合先生
そうですね。アメリカでモーツァルトの音楽がどういう外科的手術に影響するかという調査がありました。それは内視鏡で大腸のポリープを発見する時に音楽をかけると発見率が飛躍的に高まったという報告です。
新聞に出た際に、記者に「それはどうしてか?」と聞かれたことがありました。記者は外科医の集中力を高めたからの一辺倒だったから、「もちろんそうだけれども、もうひとつはモーツァルトの音楽が血管をよく拡張し、消化液の分泌を高めることにより、内視鏡がスムーズに入っていくので、発見率の向上に一役かった」とコメントを述べたのがそのまま新聞に載りました。そういったことでも違いますね。