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岸部 宏一
横浜医療法務事務所 代表

医業経営コンサルタントが法務から考える医院承継
④ 親族間での承継手順モデル

承継者、財産などを明確に

前回は他人間での承継手順をお伝えしましたが、今回は親族間での承継の手順について紹介します。

1 承継者の決定
医師個人が開設する診療所では、原則として開設者自らが管理者になることが求められます。また、管理者は原則として他の病院又は診療所の管理者でない医師でなければならず、また当該診療所に常勤する医師であることが求められます。

親族間での承継に際し、親族中の複数の医師が関与する場合には、開設者/管理者/勤務医等の関係が不明瞭なまま診療を継続してしまう可能性がありますが、責任の所在を明確にする上で、少なくとも開設者、管理者、勤務医の関係を明確に定め、それぞれ届出等を済ませた上で診療にあたることが肝要です。

2 財産の分離
親族間の承継に際して、最も問題になりやすいのは診療所としての財産と純粋な個人資産を分離せずに進めてしまいがちな点です。特に親子間承継では、他の相続人との関係で相続発生時に問題となることが多いので、以下に診療所の親子間承継に際しての財産を分割する主な手法を示します。

a)財産の分離
承継後の診療所経営に必要な財産と、将来の相続対象とする純粋な個人資産を分離して目録等にします。

b)贈与・譲渡・賃貸借等の契約締結
診療所経営に必要な資産については、旧開設者(親)から新開設者(子)に対して譲渡、賃貸等により資産を使用する権限を明確にする必要があります。尚、診療所建物が旧開設者の所有である場合、新開設者の診療所開設届は建物の使用権限を明確にする書面(賃貸借契約書等)を添付した上でないと受理されません。
また、親子間承継に際しては相続税・贈与税等への対策も重要な課題ですが、税金対策ばかりを先行させてそもそもの権利関係を明確にしないままで進めることは、後日の紛争のもととなりかねません。新開設者が診療所の資産を使用して事業を行うことについての権利関係を明確にしておくことが肝要です。

c)旧開設者(親)の遺言書による相続分の指定
診療所の資産、純然たる個人資産の別を問わず、実質的に親(旧開設者)が所有する資産につき、遺言により自分の死後の配分方法を定めることができます。遺言では、相続分の定め、遺贈、相続人の廃除、遺言執行者の指定等を定めることができ、相続分の指定については法定相続分と異なる定めをすることも可能です。

ただし、遺言により遺留分を下回る相続分の指定を受けた相続人は、相続開始後に他の相続人に対し遺留分減殺請求権(民1031条)を行使することにより、遺留分まで自己の相続分を回復することができます。また、遺言による相続分の指定については、相続人全員の合意があれば遺言と異なる分割をすることもできると解されています。

遺言は、緊急の場合等を除いて以下の3通りのうちいずれかの形式でしなければ効力を生じない(要式行為)ものとされています。

ⅰ)自筆証書遺言(民968条)
最も簡易な方法。遺言内容の全文、日付、氏名すべてを自筆で書き、押印をします。遺言者の死後に発見されない危険があり、遺言の開封に際しては家庭裁判所の検認手続が必要となります。
ⅱ)秘密証書遺言(民970条1項)
遺言者が自分で作成した遺言書を公証役場に持ち込み、公証人と2名以上の証人の前で自己の遺言書である旨を申述し、遺言書と同じ印鑑で封印します。発見されない危険は自筆証書遺言と変わらず、裁判所の検認手続も必要であり、実際にはあまり使われていません。
ⅲ)公正証書遺言(民969条)
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人がその内容を書面として遺言者及び証人に読み聞かせ、内容を確認した後に各自が署名押印し、公証人が付記に署名押印して原本を保管します。尚、実務的には、遺言者の印鑑証明書や財産関係に関する資料と共に遺言書文案を事前に公証人に提示し、内容まで確定した時点で公証役場に出向くのが通例です。費用はかかるものの、裁判所での検認手続は不要であり、最も確実な遺言の方法です。

以上のような手法を必要に応じて組み合わせ、承継後の診療所経営に必要な財産とそれ以外の財産を明確に分離し、後継者となる新開設者には診療所経営上必要となる資産の所有権等の権利を移転します。