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下吹越 一孝
JPコンサルタンツ・グループ ペンデル税理士法人 代表社員

新しい医療法人の設立と運営の実務
(1)医療法人化のメリットとデメリットを検証してみよう

医療法人の主流を占める一人医師医療法人

医療法人とは医療法の規定に基づき、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または老人保健施設を開設しようとする社団・財団で都道府県知事の認可を受けて設立される特別法人のことです。
医療法人は営利を目的にすることは禁じられ、一般の株式会社のように出資者に対して剰余金を配当することができません。
しかし、公益法人のように純然たる公益性を絶対的に求められるべきものではありませんので、その意味から営利法人と公益法人の中間的な法人に位置づけされています。

医療法人制度は昭和25年(1950年)の医療法改正が起源になり、「病院または医師もしくは歯科医師が常時3人以上勤務する診療所」が医療法人化できるとしてスタートしたものです。この時点では一定以上の規模を有す医療機関に対して法人化を認めていましたが、昭和60年(1985年)の医療法大改正によって、「医師もしくは歯科医師が常時1人または2人が勤務する診療所」も医療法人化が認められるように緩和されました。この改正で、一人医師(歯科医師)の開業医が個人診療所から医療法人に経営形態を変更する動きが活発化して、いわゆる「一人医師医療法人」は今日まで増え続けてきました。

厚生労働省の調べでは、平成23年3月末現在の医療法人数は46,946件で、そのうち一人医師医療法人は39,102件(医科31,537歯科7,565)となり、実に全医療法人数の80%を超え、医療法人の形態として今や完全に主流を占めていることがわかります。

※「資料:都道府県別医療法人数」


 

法人化のメリットを確認してみよう

(1)医療経営の安定化を図れる
医師個人としての家計の収支と診療所の経営収支を明確に分けることにより、組織として独立した意識がスタッフにも浸透しますので帰属意識が高まります。また、個人開業医の場合には院長が死亡した時に診療所を廃止して、後継者の医師が新たに始めから診療所を開設することになり、保険医療機関の指定や銀行預金の通帳などを一新する手間が掛かりますが、医療法人の場合には理事長が死亡した時でも、新理事長を選出する手続きだけで済みます。これは対外的な信用度を高めるばかりでなく、スムーズな医業承継対策のプランニングにも役立つこととなります。

(2)対外的な信用力を高める
会社を退職して独立開業を目指す起業家の方々が、自らの会社(法人)を設立する大きな理由は対外的な信用力を高めることにあります。社会的に広く知名度や信用力を高めるには、個人事業として活動するよりも法人化した方が有利になるためです。医療機関の場合にも、これと同じことが言えます。特に銀行などの金融機関は、この傾向が顕著に表れますので、医療機器や設備などの大型投資計画を検討する際に借り入れが生じる時にも、個人と法人では借入金額の上限や金利、返済期間など、融資要件の取扱いが異なり、医療法人の場合には有利に働きます。

(3)様々な税制上の恩典を受ける
1.法人税と所得税の税率の違い
医療法人は営利を目的に活動するわけではありませんが、事業活動の結果として生じた利益には一般の法人と同じように法人税が課されます。これまで個人診療所の事業主として課税された所得税は、所得が高まるに従い税率も上がる「超過累進税率」を適用されていますが、医療法人は法人税の「比例税率」の対象となり、高額所得者の個人開業医のケースと比べて低い税率が適用されますので、税率の単純比較だけでも法人化のメリットが確認できます。開業後2~3年経過して、医業所得の見通しが年間2千万円程度を見込めるようになれば、法人化を試みる契機になると言えるでしょう。
※「資料:医療法人化による税務メリットの検討」

2.所得分散により税率が下がる
医療法人の理事長となる院長には理事長給与、院長の配偶者(妻)や後継者(子供)の理事には理事給与となり、それらの給与は損金として経費に認められ、経費を引いて残る所得が医療法人の課税所得となり、結果として所得の分散化が図れることで税率は低く抑えられて節税効果が発揮されます。

3.経費処理できる支払いが増える
個人開業医には経費として認められない支出でも、医療法人では損金処理ができる支払いがあります。例えば、法人が契約する保険料で必要経費に認められる定期保険料などは経費になり、所得金額から差し引かれます。

4.退職金が受け取れる
個人開業医としては本人や生計を一にする親族が退職金を受け取ることはできません。しかし、医療法人では院長や親族の理事に対する死亡退職時の退職慰労金や弔慰金はもとより、生前に勇退する時にも退職金を支給できます。この退職金も税務上の適正金額の範囲内であれば全額を経費に損金算入することができます。

5.所得税の源泉徴収がなくなる
個人開業医の社会保険診療報酬に対する支払いは所得税の前払いとして原則10%の源泉徴収がされています。この源泉徴収は個人所得税を対象にしたものであり、医療法人の法人税には必要がなく、診療報酬の10%相当が天引きされずに済むことで、資金繰りに大きなメリットが生まれます。

6.赤字の繰越控除は7年間も認められる
個人事業者の純損失である赤字は、その翌年から3年間に限り控除の対象となりますが、法人の欠損金である赤字は7年間にもわたって繰越控除ができるメリットがあります。つまり損金の額が長期にわたり益金から控除できる税制上の恩典により、大型の設備機器やスタッフの人員投資などを検討する場合に、赤字覚悟の思い切った事業展開を図ることもできることになります。